はじめに
これまで、タンクメンテナンスで現地の管理担当者様とお話させて頂く機会は数多く御座いました。密閉形隔膜式膨張タンク、同じく密閉形隔膜式給水圧力タンクを管理なさっている管理者様でも、なかなかその構造を体系的に理解されていた方は少ないのではないかと思われます。
機械室には何十種類という設備が立ち並ぶ中、膨張タンクや給水圧力タンクなどに対して集中的に意識を向けて、その構造と動作原理を理解しようとする機会を持つことは難しく、加えて、これらのタンクについて、文献やインターネットで情報を探しても、どうしても表面的な内容が多く、完全に理解するに至らないのが現状です。
ここでは、タンクメンテナンスで必要な基礎的な知識を出来る限りわかりやすく記載しております。ご一読頂き、ご理解のお役に立てれば幸いでございます。
密閉式膨張タンクの動作原理
密閉式膨張タンクのその多くは、密閉システムにおける給湯設備、空調設備の冷水や温水の配管に採用されています。これらのシステムで発生した膨張水は対処をしないと配管内の水圧を急激に上昇させます。密閉式膨張タンクは、発生した膨張水を一時的に飲み込み、配管内の水圧の上昇を抑える役割を持っています。
密閉式膨張タンクの動作原理的側面から見た封入圧力
密閉式膨張タンクの内部構造は、空気室と水室で構成されていることは、多くのメーカーのWEBサイトでも説明されています。
膨張タンクのメンテナンスで最も重要な項目の1つが、空気室内の空気封入圧力です。適正な封入圧力の値は、システムごとに異なります。
適正な封入圧力を決定づける条件を以下に記載します。
- システムの最高補給水圧力
- 循環ポンプと膨張タンクの位置関係
- 膨張タンク取り付け位置
ここでは、オフィスビルの給湯用システムに据え付けられている膨張タンクを例にとってご説明します。
システムの最高補給水圧力とは、給水配管から給湯配管に接続された状態での、給湯配管内の最も高い状態のゲージ圧です。給水配管と給湯配管の間に減圧弁が取り付けられている場合は、減圧弁の2次側、つまり給湯配管側のゲージ圧となります。ただしこの場合、循環ポンプが稼働していない状態を言います。
循環ポンプと膨張タンクの位置関係は主に、膨張タンクの設置場所が循環ポンプの吸込側に近いのか、吐出側に近いのかを考えます。
膨張管の形状にもよりますが、一般的には循環ポンプの吸込側に近い場所に膨張管を取り付けることが望ましいとされています。理由としては、吐出側はポンプの起動時に配管内の圧力が上昇しやすく、膨張タンクに最高補給水圧力以上の圧力が頻繁に発生することが挙げられます。
膨張タンクの取付位置は、取付位置が屋上か地下かもしくは中層階かで、膨張タンクにかかる水頭圧が異なるという点を考慮しなければならないという事です。水頭圧のみを考えた場合、屋上と地下では地下に設置されているほうが水頭圧が当然高くなります。
以上3要因を確認して、初めて適正な封入圧力を決定することができます。
膨張タンクは圧力上昇を吸収するタンクであるとおっしゃっている管理者様がいらっしゃいます。完全な間違いではないのですが、実際には、水の温度変化によって発生した膨張水を一時的に飲み込み、配管内の急激な圧力上昇を抑えるという動作原理が働いています。
この点を踏まえますと、膨張タンクが最も効率よく作用するためには、いかに無駄なく膨張水を飲み込むことが出来るかが鍵となります。
つまり、膨張タンクの封入圧力が高過ぎる場合、膨張水が発生し配管内の圧力が上昇しても、膨張タンクの封入圧力に達するまでは、膨張タンクは一切機能しないという事になります。
反対に膨張タンクの封入圧力が低すぎる場合、配管内の水圧の方が高いという事になり、膨張水が発生する以前に、システムの水を常時飲み込んでしまっている状態となります。これでは、膨張タンクの性能を十分に発揮することは出来ません。
膨張タンクの封入圧力を決定づける3要因を確認し、最も高い数値こそが膨張タンクの適正な封入圧力といえます。もちろん条件によっては、例外も御座いますので、十分にシステムの全体を体系的に理解して検討する必要があります。
密閉式膨張タンクにおける封入圧力調整の重要性
第二種圧力容器に規定される密閉形隔膜式膨張タンクや給水圧力タンクは、厚生労働所の定めるボイラー及び圧力容器安全規則における、第八十八条で、毎年、定期自主検査の実施を義務付けられています。そしてまた、上記でもご理解いただけるように、定期自主検査の点検項目には含まれてはいない、封入圧力調整が大変重要となります。
膨張タンクなどの第二種圧力容器は、製造段階で漏えい検査や耐圧検査が全数実施されています。しかし、空気室と水質を分離しているゴム製の隔膜(ダイヤフラム・ブラダー)は、車のタイヤと同様にガスを透過させるため、空気室の封入圧力は水室へと徐々に流出していきます。また、フランジやネジ部からの微少な漏れが発生する場合もあります。
年次点検時に封入圧力調整を実施する理由は、この減少した封入圧力を補てんする点にあります。封入圧力が低下したまま使用しますと、前項目で述べた通り、膨張タンクの性能を十分に発揮することが出来なくなります。
密閉式膨張タンクのメンテナンスを行わない場合の問題とリスク
第二種圧力容器における定期点検の確認項目は、タンク本体外傷の有無、フタの締め付けボルトの摩耗や緩み、付帯する配管の損傷と定められています。これらの定期点検は、膨張タンクの性質上の安全面を点検する為の物で、当然行うべき内容であります。
そして、もう一点、膨張タンクの本来の機能を保つための点検という観点も考えなければなりません。それが、適切な封入圧力の調整です。これらの点検を行わない場合の問題とリスクを、とりわけ機能面から考えてみますと、以下のようになります。
機能面の問題
- 封入圧力が経年によって低下し、適正圧力を大きく下回る
- 膨張タンクの封入圧力が低下したことで、システムの水がタンクに常時流入する
- 結果的に膨張タンクの膨張水の飲み込み可能量が減少し、配管内の圧力が上昇する
- ダイヤフラム、ブラダーの負荷が高くなり破損を引き起こす
機能面のリスク
- 膨張水が発生するたび安全弁が解放される
- 配管内の圧力が上昇し、最も弱い部位の配管や周辺設備のポンプに亀裂(クラック)が生じる
- タンク内の空気室に水が流入し内部で腐食が発生する
- 死に水がタンク内にたまる
上記でリスクとして挙げましたが、安全弁が解放されるという事は、お湯(=エネルギー)を捨てているという事であり、ロスに直結します。また、配管や周辺設備への圧力上昇に伴う影響も無視できません。ダイヤフラム、ブラダーの破損は、メンテナンスを行うことでリスクを低減することができます。
しかしながら、ゴム製品である以上、経年劣化の破損は免れることは出来ません。破損した状態で、長い期間放置しますと、タンク本体の内部が腐食し、タンク内に溜まった水が死に水となり、汚染された状態でシステムに流れ込む可能性もあります。メンテナンスを行うことで、早期発見が可能です。